■ 木戸式治療について ■
last modified 11/26/2025
◆ 天地人治療とは ◆
原典は『黄帝内経』(『素問』・『霊枢』)
伝統的な鍼灸の治療法は、中国古典医学の原典である『黄帝内経』(『素問』・『霊枢』)に完成したとされている。これを木戸正雄は臨床を通して読み解き、検証し、三陰三陽を根拠とする「経絡系統」と、三才思想から成る「天・地・人」という二つの大きな柱により構成されていることを確認し、それぞれの仕組みを治療術として構築し、古典の治療体系を現代の臨床に甦らせた。
それが身体を縦に貫く「経絡系統」を対象とする「VAMFIT:Verification of Affected Meridians For Instantaneous Therapy (ヴァムフィット:経絡系統治療システム)」と、横方向に輪切りで捉える「天地人治療」であり、これに経絡の診断に不可欠な脈診を習得するために構築されたステップアップ方式の「脈診習得法<MAM:Method for Acquiring Myakushin >を加えた氣の医学を総じて広義の「天地人治療」と呼ぶ。
木戸はまた、天地人治療の縦と横の関係を発見したことで、鍼灸医学界の世界的権威者である柳谷素霊が著した『(実験実証)秘法一本鍼伝書』に記された各治療穴が、VAMFITの縦ラインと天地人治療の横ラインの交点となる「気街」であることにも気付いた。柳谷が「温故知新の精神」をもって「古典に還れ」と提唱し、膨大な古典資料を探究して記した『秘法一本鍼伝書』はながらく絶版となっていたが、その各治療穴の意義を説いた木戸の著書『素霊の一本鍼』は、それらが分類された治療箇所のみの特効穴に留まらず、気街として同じ気の袋で関わる別の部位や、小宇宙として投影される身体の他の部位にも効果を発揮するよりパワフルな治療穴へとバージョンアップさせて甦らせた。
東洋医学の経絡を用いる治療を既に実践されている施術家なら、古典にその経絡の解説とともに記されているバリエーション豊かな天地人治療の治療アプローチも同様に道具として備えておくと、治療が格段に飛躍するのでぜひ試していただければと思う。
鍼治療は病名治療ではない
あらためて確認しておくと、鍼治療は病名治療ではない。にもかかわらず、特定の病気に対して薬が処方されるように、病名に対する治療穴がどこかという質問を患者や医師や一般人からだけでなく、東洋医学の学習者や治療家からすら受けることがある。対人治療は均衡から逸脱した状態の氣を整える治療なので、治療する対象は異常経絡・異常気街である。
あとから西洋医学的分類により名前をつけられた病名の枠を人体にあてはめると、一定の傾向はあるとしても、複数の異常経絡・異常気街が単体もしくは複数同時で原因となっていることがある。 そこで病名単位に使われうる治療穴の名称のみを挙げることは意味を成さない。どの治療穴で対処するかは、その患者の異常経絡・異常気街を診断しないことには決定できないからである。
天地人治療という人体に対する治療術を身に付け、西洋医学的病名が何であれ、目の前の患者のどの経絡・気街が今異常を起こしているかを診断し、傾向の高いよく使う治療穴でも、知らなかった希な例となるような治療穴でも、適切に対象経絡・対象気街の氣を調整して治療してもらいたい。
裏を返せば、たとえば重量の数値に対応する体積量は一定ではないように、 西洋医学の基準である病名と、東洋医学の尺度である経絡所属穴としての治療穴とを結びつけて記憶し、正しい東洋医学的診断なしに覚えた治療穴で鍼をすることは、治療ではなく悪化させることにもなりうることも当然の理であることを忘れてはならない。これは、西洋医学と東洋医学は尺度が異なるからである。
おおきな外傷や進行の速い病変に対しては、東洋医学的な自然回復力を促す治療よりも外科手術のほうが有効な場合は多いし、緊急を要する疾患もある。治療対象の病状を正確に把握し、患者にとって、最適な治療が提供されることが望まれる。
現代、西洋医学の進歩により、以前は分からなかった病巣の部位が特定されたり、病変の本質に迫ることができたりすることは、東洋医学における診察にとっても有用であることは当然のことである。西洋医学から多くの恩恵を受けていることに感謝しつつ、そこで生かせる東洋医学の力を発揮することで、洋の東西を問わず医療の発展に貢献できれば幸いである。
古典に記された2つの治療体系
『霊枢』の各篇の経絡系統についての記載に一貫した体系があるため、これまでは鍼灸医学における治療法は専ら経絡理論に焦点が当てられてきた。しかし、経絡系統の範疇に属さない治療法の記載も数多くあり、木戸は臨床体験に照らし合わせてみることで、それらの根底に流れる一つの統一理論にたどり着いた。それが、人体が天・地・人という三分割された「気の袋」で構成されていると捉える「天地人治療」である。治療はこの袋の中の気を調整していく。
経絡系統についても、臨床に直ちに使用できる治療システム「VAMFIT」を構築した。その代表的方法の「頸入穴VAMFIT」では、『霊枢』の「根結篇」に示されている頸部の6つの要穴(頸入穴)を、診断点とする。反応のある頸入穴に該当する経絡かその表裏経を異常経絡(変動経絡)とし、十分な改善が得られるまで、その該当経絡の要穴に順次刺鍼を加えていく方法である。
経絡治療では、病の根本が臓の精気の虚にあるととらえ、その状態を「基本証」として肝虚証、脾虚証、肺虚証、腎虚証、心虚証、心包虚証の6つの証に分類する。しかし、この基本証は単に精気の虚であるため、それだけでは症状がでることは多くない。これらの精気の虚に何らかの病因(内因・外因・不内外因)が加わることによって、寒や熱が発生し、各臓腑経絡に波及することで、その波及先の経絡(異常経絡・変動経絡)の支配部位が愁訴部位となる。
この基本証の診断は脈診により決定され、同時に対応する「本治法」と呼ばれる治療法も確定する。この脈診についても、治療に欠かせない診断術であるため、木戸は研究班を率いて改良を重ね、感覚が超人的な天才でなくても無理なく習得できるステップアップ方式の<脈診習得法MAM>を構築した。
天地人治療は豊富なバリエーションでアプローチ
脈診による本治法だけで症状の改善が十分でない場合は、名人芸とされがちなより精密な脈状を診る高度な脈診法を用いずとも、VAMFITで診断しながら同時に診断に応じた治療が施される。
一方、さまざまな病態が重なっていたり、いわゆる難病などの理由で治療の効果が足りないと感じられる場合、また、診断部位が怪我などで使えなかったりで診断そのものが困難であるなど、望むような治療結果を導けない状況もある。そうしたときに追加できる治療アプローチが、天地人治療のバリエーションである。
脈診は全身を脈診部に投影した天地人-小宇宙治療なので、脈診部が怪我などで使えない場合はその他の部位に投影して診断することができる。
12本しかない正経での治療で思うような効果が得られない場合は、それらと交わる奇経や、合間を流れる素経脈の異常をVAMFITで診断し、より緻密にターゲットを絞り込んでより高い治療効果を発揮できる。
複数経絡にわたって複雑な異常を起こしている場合や、内臓疾患など異常経絡の特定が困難な場合は、愁訴部位を横方向に幅広くとらえる天地人治療で、その領域の境界となる気街からアプローチしたり、あるいは小宇宙として投影させて遠隔での治療を加えることができる。
木戸が読み解いた治療は、現代の治療家が既に臨床で使ってきている経絡治療と並列して古典に提示されているオプションの古典的治療術であり、臨床家が普段行っている治療に必要に応じて追加活用できるものである。治療レパートリーに加えておくと、流派を問わず、また鍼治療に限らず、手技療法においてもその仕組みを理解しておくことで、より有効な施術箇所の選択を導くことが可能になる。事実、縦の経絡系統と横の天地人の境界との交点にあたるツボは重用穴で、アーユルヴェーダやカイロプラクティックなどで用いられる施術点と合致する。
以下に「天地人治療」の代表的な治療名や用語についての簡単な説明をあげておく。
詳細については各著書でご確認いただきたい。

経絡系統治療システム<VAMFIT>
VAMFIT は特殊な方法ではなく、鍼灸医学の原典ともいうべき『黄帝内経』(『素問』、『霊枢』)の理念に則った、病の原因になっている経絡の変調を整えるという東洋医学の基本ともいうべき正当治療法だと言える。
すべての病の根本は臓の「精気の虚」にあるという『素問』 調経論などの考え方から、”基本証”として肝虚証 (血の不足)・脾虚証 (気・血・津液の不足)・ 肺虚証 (気の不足)・腎虚証 (津液の不足) がある。この臓の 「精気の虚」はそのまま愁訴になるのではない。これに内因、 外因、 不内外因が加わることで寒熱が発生し、それが各臓腑経絡に波及して、 気・血・津液の過不足となり愁訴を引き起こす。さらに別行の正経(経別)や別絡(絡脈)、奇経、あるいは経筋にまで歪を広げていくこともある。そのため、愁訴を緩解させるためには、「精気の虚」 を改善することは勿論、寒熱波及を受け、変動(異常)を起こした「経絡系統 (経脈・絡脈・経別・奇経・経筋)」 を検索し、整えることが必要となる。この臓の「精気の虚」と、変動(異常)を起こした「経絡系統」の診断と治療が誰にでも簡単に出来るようにシステム化したものが「VAMFIT」 である 。
(旧称:変動経絡検索法/変動経絡治療システム<VAMFIT>)
VAMFIT: Verification of Affected Meridians for Immediate Therapy
(「即時的直接的治療のための寒熱波及経絡であることの検証」の意。)
◆ 天地人治療における「奇経治療」について ◆
「奇経治療」は、「経絡系統治療システム
◇「VAMFIT-奇経本治法」
八総穴以外に、心経、肝経、大腸経、胃経に設定した新総穴を使用し、その総穴の正経十二経における所属との整合性を重視したシステムになっている。従来の上下、手足一対脈、手足二対脈を運用することが特徴になっている。
(旧名:新治療システム)
◇「天地人-奇経本治法」
『素問』などに記載される奇経の流注上の穴を直接使用する。変調をきたした奇経に対し「上部・中部・下部」「天・地・人」の境界部から施術を行い、上下、左右、前後、表裏から陰陽バランスを調整する治療法である。

天地人治療
木戸正雄は長年にわたり、多くの患者を診るうち、「天・地・人 」は「経絡系統」と並ぶ『黄帝内経』(『素問』・『霊枢』)の治療原則の柱となるメインテーマの一つであるということを確信するに至った。そして、臨床を通じて、この古代中国哲学における根本概念ともいうべき三才思想を系統的、かつ実践的な治療体系として 構築していったものが「天・地・人 治療」である。
「天・地・人治療」は、身体を三分割 (天・地・人)してとらえ、治療法としてシステム化したものである。「天・地・人治療」 では、 人体を気の袋と考える。その袋は基本的に天・人・地と並んだ3つの袋から成り立ち、その各々の袋の中に、さらに天・人・地と3つの袋が詰まっているが、その袋の中にはまた、 同様に3つの袋が詰まっているというように際限のない 「入り子構造」 になっている。つまり、 「天・地・人」 の三分割は全身のいたるところに当てはめられ、いくらでも細分化できるものである。この袋の中の気を調整していくことが、「天・地・人 治療」 の基本的な考え方である。そのため、その各々の袋の境界部を「節」と考え、施術において重要な部位としている。
「天・地・人治療」 は、三分割した気街を運用する 「天地人-気街治療」 と、身体の一部位に小宇宙(全身)を投影する 「天地人-小宇宙治療」 の二つに分類できる。「天地人-奇経治療」や「天地人-八虚治療」、 「天地人-標幽賦治療」、「天地人-四海治療」、 「素霊の一本鍼」などは 「天地人-気街治療」 に含まれ、 寸口部における 「脈診」は「天地人-小宇宙治療」 に含まれる。 さらに、 「VAMFIT」 と 「天地人」 の交点を利用することで、特効穴を自由に設定することも可能となる。
Tenchijin Therapy

脈診習得法<MAM>
脈診習得法<MAM>はステップ・アップ方式の訓練で脈診を習得するカリキュラム。訓練内容を6段階に分け、比較的容易な感覚の訓練から徐々に難易度の高い技術へとステップアップするカリキュラムで、各ステップはイメージ的アプローチ、技術的アプローチ、感覚的アプローチで構成されている。各ステップには多くの課題が設定されているため習得には時間はかかるが、着実にステップアップを図ることができる。
脈診評価表<MAT:Myakushin Assessment Table>の開発により、脈診内容を客観化させることが可能になったおかげで訓練および習得程度の確認や共有ができるため、修正点も明確になり、効率良く上達できる。
脈診評価表<MAT>の開発により、従来「基本四証」とされていた経絡治療における診断が心虚証と心包虚証を加えた「基本六証」となることが検証された。
MAM: Method for Acquiring Myakushin

素霊の一本鍼
古典を読み解いて天地人治療の仕組みを確認した木戸は、鍼灸医学界の世界的権威者、柳谷素霊が「温故知新の精神」をもって「古典に還れ」と提唱し、膨大な古典資料を探求して記した『(実験実証)秘法一本鍼伝書』にある各治療穴が、天地人治療の「気街」に当てはまることに気付いた。そこで同書に記載のある処方について、「天地人-気街治療」の法則に照らしながら読み解くことで、それらの治療穴を分類された治療箇所のみの特効穴に留まらず、多くのその他の疾患にも効果を発揮するよりパワフルな治療穴へとバージョンアップさせて甦らせた治療システム。たとえば「上歯痛の鍼」の上関穴は、気街として頭部の「天」と「人」の境界に位置するため、上歯と同じ「人」の領域にある耳や鼻の疾患にも、また刺鍼の方向や深さを変えることで「天」にある偏頭痛・三叉神経痛や目の疾患に対する治療にも有効。「下歯痛の鍼」の頬車穴の位置は、顔面診断図では股関節あるいは膝関節にあたり、小宇宙として投影して頭部のみならず腰痛・膝痛などにも効果があることが確認されている。
◆ 木戸式治療 用語説明 ◆
「頸入穴」「刺熱穴」「霊背兪穴」「素経脈」「小三脈」「三大脈」「大肺脈」「肺包脈」「包心脈」「心小脈」は
木戸正雄により命名された固有名称です。
経穴全般に言えることですが、診断・治療穴とされる重要穴でも、扱いを間違えると悪化にも作用します。
それぞれ正しい活用方法をまず確認してから、診断・治療に用いられることを強く推奨します。
「頸入穴」
頸部を診断部位として用いる頸部VAMFITのうち、頸入穴VAMFITの診断穴。
『霊枢』根結篇第五の記載の「頸の入穴」=『霊枢』本輸篇第二の「脈穴」に命名した分類名。
人迎、扶突、天窓、天容、天牖、天柱 がある。
「刺熱穴」
頸部を診断部位として用いる頸部VAMFITのうち、刺熱穴VAMFITの診断・治療穴。
『素問』刺熱論第三十二の記載に基づく五臓の熱病の治療箇所に命名したもの。
肺熱穴、心熱穴、肝熱穴、脾熱穴、腎熱穴 がある。
「霊背兪穴」
頸部および背部を診断部位として用いる霊背兪穴VAMFITの診断・治療穴。
『霊枢』背兪篇五十一の記載に基づく背部兪穴を脊椎で6椎上に移動させた位置で、
各兪穴名に『霊枢』の「霊」を冠して命名したもの。
従来の背部兪穴は第1胸椎を1番目で「大杼」としているのに対し、
霊背兪穴は第2頸椎が1番目で「霊大杼」となる。
「素経脈」
『素問』刺腰痛篇四十一の記載にある正経十二経・奇経八脈のいずれにも属さない経脈。
古典に名称の記載がある足の該当脈
および 正経の合間の位置の記載のみの手の該当脈の分類名として、
「経脈」に『素問』の「素」を冠して命名したもの。
手の素経脈には、両隣の経脈により脈名を命名。
足に 解脈、同陰脈、衡絡脈、会陰脈、直腸脈、飛陽脈、昌陽脈、散脈、肉里脈、
および 手に 小三脈、三大脈、大肺脈、肺包脈、包心脈、心小脈 がある。
「脈診評価表<MAT>」
木戸正雄らが開発し命名した脈診結果を記入する表。
横軸3部位x5層の各層1つずつの評価を左右で2つの表に記入する。
日本語名称は「脈診評価表<MAT>」、
英語名称は Myakushin Assessment Table, MAT。
5層の脈診評価表<MAT>の形は研究開発されたオリジナルの道具であるため、脈診習得の目的においては、開発者が提唱する運用法がベストです。
脈診習得のうえで大切なことは、一度に脈診法のすべてを学ぼうとしないことであり、まず3段階の深さの把握を習得したのちに、5層の捉え方を訓練してから、5層の脈診図を活用してください。
脈診を練習中の方は、MAMの特徴が5層図だから、といきなり解説本の5層の説明の章だけつまみ読みしてもうまくいきません。きちんと手順を踏んだ、順番通りの段階的なトレーニングを推奨します。
(旧称:浮・沈スケール脈診図)
posted 06/16/2025
©2025天地人治療会
